文字校正・編集のポイント 2020

2020年のまとめとして、最近の案件でのスタディをまとめておきます。

文字校正・編集の具体的なポイント

箇条書き

途中に箇条書きをはさむ場合、しゃべり言葉と同様に書いてしまいがち。

印刷入稿する場合には、

  • PDF/X-1a
  • PDF/X-4

のいずれかにて書き出します。

しかし、受ける文言が“遠く”なってしまうため、書き言葉では次のようにリライトする。

印刷入稿する場合には、次のいずれかにて書き出します。

  • PDF/X-1a
  • PDF/X-4

項目数が増えることで、次の段/次ページに泣き別れてしまうことを防ぐ意味もある。

「違う」

違う」には間違っているというニュアンスが含まれているため、differentを意味する場合には「異なる」や「別の」という表現が望ましい。

冗長な表現

多くの場合「〜です」で置き換えられる「になります/となります」は冗長。変化や結果をあらわすときを除き、リライトする。

そのほか、ありがちな冗長表現。

  • 〜することができる
  • 〜という

Acrobatでのチェック

PDFの場合には、Acrobatで開いて[高度な検索]で検索。 すべての該当箇所がリストアップされるので、CSVに書き出してチェックリストにするとよい。

表記揺れ

複数の著者による原稿では発生しやすい表記揺れのサンプル。

強調の意味で使う記号

  • 「※」
  • 「*」
  • 「*」

見落としやすい記号

  • 全角の「:」と半角の「:」:半角だと下がって見えてしまうため全角が望ましいが、「https://」などのURL内の「:」を全角にしてしまわないように注意
  • 全角の「&」と半角の「&」

企業での方針違い

細かすぎるし、統一した方が気持ちよいが、テクニカルライティングでは正確さが生命線。

  • アップル:ウインドウ
  • アドビ:ウィンドウ
  • その他:ウインドー

音引きが異なることも多々ある。

  • アップル:フォルダ
  • アドビ:フォルダー

「本書では、ウインドウはウィンドウに統一する」のように“ただし書き”を入れておくのもよい。

正規表現ならウ[ィイ]ンド[ウー]と指定できる。

数字(半角/全角/漢数字/ひらく)

悩ましい問題。記事単位、書籍単位で方針として統一したい。

  • ひとつ、1つ(半角数字)、1つ(全角数字)、一つ(漢数字)
  • ひとつひとつ、一つ一つ、一つひとつ、1つひとつ(※使わない)
  • ひとり、一人(漢数字)、1人(半角数字)、1人(全角数字)

「そこはひとつ」「ひとつやってみよう」は「ひとつ」、「1つの設定箇所」「2つ目の画面」などは算用数字を使うなど、あえて書き分けるケースもあり。

パーレン前後の句点

文末のパーレン(=丸カッコ)の扱いに注意したい。

○○○○○○○○。()。

○○○○○○○○。()

は、次のように記述する。

○○○○○○○○()。

「。(」で検索してチェック。

カタカナ語の語尾の音引き

「ブラウザー」「ブラウザ」のように、語尾の音引き(長音記号)は文書内では統一したい。正規表現で「検索条件:ブラウザー?」と設定して置換する。

ただし、「ユーザー?」では「ユーザビリティ」や「ユーザーセグメント」も対象になってしまうので要注意。

音引きと罫線

「オーバーライド」とするところ、「オ-バ—ライド」のようにハイフンやダーシ、「オ―バ―ライド」のように罫線になっていることが(よく)ある。

「MS Pゴシック」などのフォントによっては気づきにくい。

太めの明朝系のフォントに変更すれば気づきやすいが、やはり「目視」では限界がある。

しれっと音引きの代わりに入っている罫線やハイフンなどを探して変更するには正規表現を使って探す

  • 検索文字列:(?<=([ァ-ヶ]))[-‐‑–—―−ー─]
  • 置換文字列:

半角のパーレン(丸カッコ)とその前後のスペース

MSゴシックを使って原稿を執筆される方の場合、パーレン(丸カッコ)に関して、次のようになっていることがある。

  • [A]見た目に判別できないので半角で入力されている または、全角が混じっている
  • [B](アキの確保のため)パーレンの前後にスペースを入れている

しかし、次の理由から全角に変更し、スペースを削除する。

  • [A]下がって見えてしまう
  • [B]アキはアプリ(Illustrator/InDesign)で制御する

次のように正規表現を使って置換。

  • 検索条件:\s?[((]\s?(.+?)\s?[))]\s?
  • 置換条件:($1)

検索条件のロジックは次のとおり。

二重引用符

二重引用符(“”)では、次のようなミスがありがち。

  • 終わりカッコを誤用
  • マヌケ引用符(ソースコードで使う引用符)

目視では限界があるので、正規表現を使って置換する。

  • 検索文字列:”(.+?)”
  • 置換文字列:“\1”

上から「MSゴシック」「小塚ゴシック」「Noto Sans」による起こしのカッコに閉じカッコを使った例。「小塚ゴシック」だと平気に見えてしまう。

上から「MSゴシック」「小塚ゴシック」「Noto Sans」による「マヌケ引用符」を使った例。「MSゴシック」だと平気に見えてしまう。

読点チェック

文節ごとに変換しながら入力される方が多く、そのタイミングで「、」を入れることで、結果として「、」が多くなりがち。編集の段階で「、」を減らせないかを、チェックリストに入れる。

相対的な日付

日付入りのブログ記事であっても相対的な日付には絶対的な日付を添えておきたい。

  • 「今年」 → 「今年(2020年)」

注意すべき項目:

  • 今年、来年、昨年、去年
  • 今年度、本年度、昨年度、来年度
  • 今期、来期

InDesign関連

脚注・後注

複数の著者による原稿では、脚注の書き方が乱れがち。InDesignの「目次」機能を使って、脚注のテキストを抜き出し、チェックするとよい。

InDesignのペーストボードでクリックし、テキストフレームを作成したら、そのままコピーし、Excel(Google スプレッドシート)にペースト。タイプ別にカテゴリ付けを行い、表記などの揺らぎをチェックする。

  • URLのみ
  • 出典
  • 用語説明
  • 補足

索引

お〜まちさん @cs5_omachi が公開されている「CSVファイルから索引を自動設定する」スクリプト「readindexCS3.jsx」は、InDesign 2021(16.0)でも動作します。

ただし、拾いすぎてしまうので精査が必要です。

索引制作の前に

InDesignで索引を設定する前に「読みがな」の設定が必要です。それなりの時間がかかりますので、ある程度までは機械的に行い、その後に精査するのがよいでしょう。

漢字テキストによみがなを振る | CreatorsBlog|タクトシステム株式会社という記事にて、いくつかの方法や組み合わせについて紹介されています。

  • Jeditの[漢字をひらがなに変換する]機能を使う
  • ExcelのPHONETIC 関数を使う(Google スプレッドシートにはありません)
  • 形態素解析 API を使う

今回はGoogle Spreadsheets 漢字に読み仮名(ひらがな・カタカナ)を付けるカスタム関数を作った - Qiitaを使わせていただいたのですが、後日アクセスしたところ、使用できなくなっていました…

索引の削除

  1. [検索と置換]ダイアログボックスの[検索文字列]の[@]をクリックして表示されるメニューから[マーカー]→[索引マーカー]をクリック
  2. [検索]フィールドに「^I」(正規表現の場合には ~I)が入力される
  3. 置換を実行。

リンクチェック

InDesignから「Adobe PDF(インタラクティブ)」で書き出せば、URLなどは自動的にリンクされるが、次のケースでうまくリンクできないことがある。

  • Wikipediaへのリンクなど、URLに日本語を含む場合
  • URLに続く文字列との間にスペースが設けられていない

InDesignの[ハイパーリンク]パネルで行える簡易リンクチェック機能を利用したい。InDesignがリンクと認めない場合、リンク先が存在しない場合には赤い丸が表示される。

アポストロフィ

合成フォントを利用時、アポストロフィ後のアキが不自然になってしまいます。

「特例文字セット」にて、アポストロフィに欧文フォントを指定します。

音声によるチェック

「音引き」問題に限らず、校正に有効なのが「音声読み上げによるチェック」。ただし、音声読み上げは、「同音異義語」はチェックできない。

macOS Big Sur(11.0)だと、システム環境設定の[アクセシビリティ」の「読み上げコンテンツ」にある。システムの音声「Kyoko」は変更可能。

デフォルトのキーボードショートカットはoption + escキー。

macOS Mojave(10.14)では、[アクセシビリティ]の[スピーチ]にある。

読み上げ機能は、iPhone/iPadにもあります。 Assistive Touchに仕込んでおくと便利。応用例として、Kindleコンテンツを「勝手Audible」(読み上げコンテンツ)のように使える。

テキストエディタを活用しよう

なんでやねんDTP/おぢんさんのこちらのツイートに尽きますが、IllustratorやInDesignでの作業の前に、テキストエディタやExcelなどで文字原稿を下処理しましょう。

オススメはJedit Ω

こちらの記事で出てくるテキストエディタのスクリーンショットはJedit Ωのものです。

  • 軽い
  • 基本的な文字編集機能が豊富
  • 検索・置換機能が強力
  • 頻繁に手が入れられている

標準の*テキストエディット.app*は正規表現に対応していないため、文字原稿を処理するためのエディタとしては対象外。

Jedit Ωの基本的な文字編集機能

文字原稿を下処理に役立つコマンドは[ツール]メニュー内に用意されている。

  • 改行/プレフィックスの除去:Acrobatからコピー&ペーストしたテキストなどの不要な改行を削除するのに重宝する

  • ソート隣接する重複行を削除(メールアドレス一覧をクリーンアップするなど)

  • 行頭の空白文字を削除:行頭のスペースやタブなどを削除

  • 行末の空白文字を削除:支給される原稿には意外に多い

  • 半角・全角変換:InDesignよりもずっと細かく設定できる

  • スマート日欧分離:和文の中に出現する英単語の前後にスペースを入れる機能。オフにしたからといって消えるわけではない。

Jedit Ωの「複数一括置換」機能

「複数一括置換」機能を使うと、複数の条件をまとめて適用できます。 ただし、変わった箇所の色を変えるなどの処理ができないのが難点(意図しないところまで変更してしまっているとき、見落とす可能性が残る)。

その他

グラフィカルな台割

出版業界にとっては当然の「台割」ですが、そこに入っている用語が業界外には不可解です。サムネールを付けたグラフィカルな台割なら一目瞭然。これは広まって欲しい。

まとめ

  • IllustratorやInDesignでの作業の前に、テキストエディタやExcelなどで文字原稿を下処理する
  • テキストエディタの基本機能のほか、正規表現を活用することで目視では拾えきれないチェック(および置換)を行う。ただし、過信しすぎない
  • 誤りがちな表記、表記の揺れはデータベース化し、案件ごとに使い分ける
  • 音声読み上げによるチェックも活用したい

オンライン校正支援ツール

オンラインで利用できる校正支援ツールも利用したい。